今回は、写真家でありエッセイストでもある星野道夫さんが執筆された『旅をする木』という本を紹介したいと思います。
この本と出会ったきっかけは、女優の戸田恵梨香さんがある雑誌のインタビューで紹介していたのを目にしたことでした。それを機に星野道夫さんという人物に興味を持ちました。また、小学生の頃の国語の教科書にも、星野さんのお話が載っていたことをふと思い出しました。(確かタイトルは『悠久の自然』だったはず…)
『旅をする木』は、アラスカの壮大な自然やそこに生きる人々の生活を描いたエッセイ集です。今回の記事では、この一冊を通じて、星野道夫さんという人物に迫りながら、アラスカの自然や文化、そして人生や生き方について考えてみたいと思います。
この本は特にこんな方におすすめです!
- アラスカの自然や文化に興味がある方
- 人生や生き方について考えたい方
- 感情豊かな言葉を味わいたい方
作品情報
- タイトル:旅をする木
- 著者:星野道夫
- 出版社:文藝春秋
- 初版発売日:1995年3月10日
- 文庫版発売日:1999年3月10日
- ページ数:256ページ
- ISBN:978-4-16-751502-7
内容紹介
星野道夫氏がアラスカで過ごした日々を綴ったエッセイ集で、厳しくも美しい自然、先住民族や開拓者たちとの交流、動物たちとの触れ合いなどが描かれています。生と死、自然との共生、人生の意味について深く考えさせられる作品です。
タイトルの『旅をする木』は、星野氏の愛読書であった『Animals of the North』に登場する「Traveling tree」の物語に由来しています。この物語では、鳥によって運ばれたトウヒの種子が川沿いに根付き、大木に成長します。やがて洪水で川を下り、海へと運ばれ、最終的にはツンドラ地帯の海岸に漂着します。その後、動物や人々に利用され、薪として燃え尽きた後も、大気中で新たな旅を続けるという循環の物語です。
主な収録作品
- 新しい旅
- 春の知らせ
- オオカミ
- オールドクロウ
- 白夜
- トーテムポールを探して
- キスカ
- カリブーのスープ
- エスキモー・オリンピック
- 夜間旅行
『旅をする木』を読んで印象に残ったエピソードと感想
「春の知らせ」より
夕暮れ時、星野道夫さんは山から下りてくる雌のカリブーの群れを観察していました。その中で一頭が群れから遅れ、慌ただしく動いている姿に気付きます。
やがてそのカリブーが立ち上がると、雪原に小さな仔カリブーが生まれていました。母親は懸命になめて仔を整え、授乳の体勢に入ります。仔カリブーもよろけながら母乳を飲み、生きようとする姿を見せていました。
しかし数日後、星野さんは凍った川岸で小さな仔カリブーの死骸を発見します。身体の半分はすでに食べられており、生命の誕生と死が交錯する厳しい自然の現実を目の当たりにします。出産を見守った仔が同じ個体かはわかりませんが、命が懸命に生きようとしながらも儚く消えていく姿に、星野さんは深い衝撃を受けました。
星野道夫さんはこれらの経験をもとに、次のように語っています。
日々生きているということは、あたりまえのことではなくて、実は奇跡的なことのような気がします。つきつめてゆけば、今自分の心臓が、ドク、ドクと動いていることさえそうです。人がこの世に生まれてくることにしてもまた同じです。
また、星野さんは自然の強さの裏に脆さが秘められていると感じており、その脆さに魅かれると語っています。この話を読んで、命の尊さを強く感じました。また、自然の中で生きることがどれほど過酷であるかについても深く考えさせられました。
いま、自分が生きていることが当たり前ではないと感じ、命がいつ終わるのかは誰にも分からないという現実に気づきました。もしかしたら、生きるというより、生かされている方が正しいのかもしれません。だからこそ、日々の一瞬一瞬を大切にして生きていこうと強く思いました。
「もうひとつの時間」より
この話の中で、私の心に深く残った会話がありました。
ある夜、星野さんが友人と一緒にアラスカの氷河でキャンプをしていたときのエピソードです。二人は満天の星空を見上げながら、その美しい景色を楽しんでいました。
「いつか、ある人にこんなことを聞かれたことがあるんだ。たとえば、こんな星空や泣けてくるような夕陽を一人で見ていたとするだろ。もし愛する人がいたら、その美しさやその時の気持ちをどんなふうに伝えるかって?」
「写真を撮るか、もし絵がうまかったらキャンバスに描いて見せるか、いややっぱり言葉で伝えたらいいのかな」
「その人はこう言ったんだ。自分が変わってゆくことだって・・・・・その夕陽を見て、感動して、自分が変わってゆくことだと思うって」
この会話を読んで、ふと考えさせられました。感動した瞬間、その感動を愛する人にも伝えたいという気持ちはとても素敵ですし、絵や言葉で表現することはきっと喜ばれることでしょう。
しかし、自分が変わっていくという考えには新たな気づきがありました。つまり、美しい景色や感動を「伝える」ことだけが重要なのではなく、その経験が自分自身にどのような変化をもたらし、どんな成長を促すかが大切だというメッセージだと感じました。
この会話を通して、感動をただ共有するのではなく、それが自分をどう変えるかに焦点を当てることの重要さに気づかされました。これまでの自分にはなかった視点だったので、価値観が広がるきっかけになりました。
星野道夫 × haruka nakamura|旅をする音楽
ここで一つご紹介したいのは、「旅をする音楽」というイベントの様子を収めたこの動画です。
「旅をする音楽」は、写真家・星野道夫さんの作品と、音楽家・haruka nakamuraさんのピアノ演奏、そして朗読を組み合わせた特別なイベントです。このコラボレーションでは、星野さんの美しい写真と彼の言葉が、haruka nakamuraさんの音楽とともに観客に届けられます。
2022年12月27日には、東京都写真美術館で「旅をする音楽」が開催されました。このイベントでは、星野道夫さんの写真がスクリーンに投影され、haruka nakamuraさんのピアノ演奏と、妻・星野直子さんによる星野道夫さんの言葉の朗読が行われました。観客からは、感動的な時間だったとの声が多く寄せられています。
この動画を観た時、本で感じていた情景が音楽と映像によって一層鮮明に浮かび上がり、心に響く感動的なひとときでした。星野さんの写真は温かく、自然や動物たちに対する深い愛情が感じられました。私自身もその美しさに触れ、心が満たされるような気持ちになりました。『旅をする木』と併せて、この動画をぜひご覧いただくことをおすすめします。
さいごに
星野道夫さんのエッセイ『旅をする木』は、アラスカの雄大な自然と、そこで暮らす動物たちとの出会いを通じて、命の尊さや儚さを静かに語りかけてくれる一冊です。星野さんの温かい視点と詩的な文章は、自然の厳しさや美しさ、そして「生きること」の意味を深く考えさせてくれます。
ページをめくるたびに、アラスカの風景が目の前に広がるようで、読んでいる時間が心満たされるひとときとなりました。アラスカの自然や文化に興味がある方はもちろん、日常の中で小さな幸せを見つけたい方にもおすすめの一冊です。ぜひ手に取ってみてください!