映画『ルックバック』感想と考察|心に残る喪失と再生の物語

シネマノート

映画『ルックバック』を観て、心に残る瞬間がいくつもありました。正直、事前にストーリーについては何も知らず、ただ漠然と観ることを決めたのですが、作品を観ているうちに、次第にその魅力に引き込まれていきました。過去の自分と重なる場面が多く、懐かしさや感動で胸がいっぱいになりました。今回は、そんな映画『ルックバック』について、自分の感じたことを振り返りながら綴ってみたいと思います。

この映画は特にこんな方におすすめです!

  • 過去と向き合いたい人
  • 劣等感や他者との比較に悩んでいる人
  • 忙しい日常の中でも、心に残る映画を観たい人

 

作品情報

あらすじ

物語は、小学4年生の藤野が学年新聞で4コマ漫画を連載し、自信を持っていたところから始まります。ある日、同級生の京本が描いた漫画の画力に驚愕し、藤野は一心不乱に絵の練習を始めます。しかし、画力の差は縮まらず、漫画を描くことを諦めてしまいます。卒業式の日、藤野は京本に卒業証書を届けに行き、初めて対面します。京本は藤野の漫画のファンであり、二人は共に漫画を描き始めます。順調に進んでいた矢先、予期せぬ出来事が二人を襲います。

 

キャスト・スタッフ

キャスト(声の出演)

  • 藤野役:河合優実
  • 京本役:吉田美月喜

お二人とも役者さんだったんですね。河合優実さんといえば、最近話題作への出演が続いている注目の役者さんですよね。私も先日、「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」というドラマを観て、主演を務めた河合さんの魅力にすっかりハマりました。ただ、映画を観ている間は声を担当していたのが河合さんだと全く気付かず、エンドロールで知って驚きました。

 

スタッフ

  • 原作:藤本タツキ「ルックバック」(集英社ジャンプコミックス刊)
  • 監督・脚本・キャラクターデザイン:押山清高
  • 美術監督:さめしまきよし
  • 音楽:haruka nakamura
  • アニメーション制作:スタジオドリアン

藤本タツキ先生が原作だと知ったとき、本当に驚きました。『チェンソーマン』の作者として知られる藤本先生ですが、あの激しいアクションや独特の世界観とは対照的に、『ルックバック』は繊細で心に深く響く作品です。まるで別人が描いたように感じるほど作風が違いますが、それこそ藤本先生の凄さですよね。ジャンルが違っても、キャラクターの心情描写や独特のストーリーテリングには共通する魅力があり、作品の幅広さに圧倒されます。本当に多才な方だと改めて実感しました。さすがです…。

音楽もharuka nakamuraさんが担当されていたと知り、またひとつ驚かされました。
YouTubeで以前から存在は知っていたのですが、こうやって映画を通して聴くと印象が変わり、また違った良さがありました。特にエンドロールで流れた「Light song」が流れた時は、感動で思わず泣いてしまいました。映像と音楽が調和していて、とても心地よかったです。

 

公開情報

  • 公開日:2024年6月28日
  • 配信:Amazonプライム・ビデオにて独占配信中(2025.1.15現在)
Prime Video: ルックバック
学年新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野。クラスメートからは絶賛を受けていたが、ある日、不登校の同級生・京本の 4コマを載せたいと先生から告げられる...。二人の少女をつないだのは、漫画へのひたむきな思い。 しかしある日、すべてを...

 

※以下ネタバレを含みますので、まだ観ていない方はご注意ください

感想・考察

映画『ルックバック』を観て実際に感じたこと

初めて感じた劣等感

京本の存在により、藤野が初めて抱くことになった強烈な劣等感のシーンはとても印象的でした。藤野にとって漫画は、自己表現の手段であり、誰よりも誇れるものだったはずです。それが京本という才能に触れたことで、「自分の存在意義が揺らぐ」という感覚に襲われたのでしょう。

「自分の居場所が奪われるかもしれない」という不安や、「この人には到底敵わない」という気持ちは、誰もが一度は経験するのではないでしょうか。その瞬間、藤野が抱いた葛藤や戸惑いに、私も強く共感しました。

相手の才能を認めたいと思いつつも、それを素直に受け入れるには時間と勇気が必要です。他人と自分を比べることは、私たちにとって避けられないことであり、時には自分を傷つける原因にもなります。私も藤野と同じように、誰かの才能を見て焦ったり、落ち込んだりした経験があります。そんな感情をどう受け止め、どう向き合うかは、きっと誰にとっても大きな課題なのだと思いました。

その後、藤野が京本に卒業証書を届けに行くシーンで、二人は初めて顔を合わせます。その時、藤野はすでに漫画を描くことをやめていました。しかし、京本から「ずっとファンだった」と告げられ、自分の4コマ漫画のファンだと言われることに驚き、喜びを感じます。自分がかつて嫉妬していた相手からそんな言葉をもらうことは、最高の喜びだと思います。その一言で藤野の心の中のモヤモヤが一気に晴れ、京本の言葉が新たなエネルギーとなり、再び創作に向かう力を与えました。帰り道での力強いスキップや、帰宅後すぐに机に向かうシーンは、彼女の興奮や心境の変化を見事に表現していたと思います。

 

不意に訪れた別れの時

お互いに切磋琢磨しながら創作活動をしていた二人でしたが、藤野はプロの漫画家として成功を収め、京本は美大に進学し、それぞれ別々の道を歩み始めます。しかし、京本が予期せぬ悲劇に巻き込まれ、突然の訃報が届いたことで藤野は深い衝撃を受け、言葉を失います。藤野は自分が京本を部屋から出したことが引き金になったのではないかと自責し、後悔の念に苛まれます。「もしあの時、京本と出会わなければ」「もしあの時、犯人から京本を守っていたら」そんな後悔からくる藤野の妄想は、観ていて切ない気持ちになりました。

藤野の妄想の中では、まるで自分が理想とする世界を作り上げたかのように、記憶の中から都合の良い部分だけが抜き取られています。後悔の原因となるような記憶は排除され、こうあってほしかったという願望が忠実に反映されています。「もし過去を自分の思い通りに修正できたなら、こんな思いをしなくて済むのに」という藤野の気持ちは、とても共感できるものです。しかし、その世界も結局は妄想に過ぎず、現実を変えることはできないのだと痛感させられます。

ここで物語は現実のシーンに戻り、藤野は静かに京本の部屋の扉を開けます。室内には、藤野が連載している漫画『シャークキング』のポスターが壁に貼られ、本棚には単行本が隙間なく並んでいました。机の上には、読者アンケートのハガキが置かれており、京本がどれだけ藤野の作品を大切にしていたのかが伝わってきます。さらに藤野がふと後ろを振り返ると、自分のサインが入ったはんてんが飾られていました。京本はあの頃から変わることなく、今もなお藤野の背中を見続けていました。この一連の光景から、京本にとって藤野の存在がどれほど大きなものだったのかが感じ取れます。

 

劣等感と喪失の先に見つけた大切なもの

その後、藤野は自然と自分自身の過去を振り返る時間に入り込みます。引きこもりだった京本にとって、藤野との出会いは外の世界と繋がるきっかけであり、閉ざされていた心を少しずつ開く契機となりました。一方で、かつて漫画を描くことを諦めかけていた藤野にとっても、京本との交流は再び創作に向き合う力を与えてくれるものでした。お互いが知らず知らずのうちに、相手に計り知れないほどの影響を与え合い、かけがえのない存在となっていたことに、藤野は自身の過去を振り返ることでそのことに気付かされます。

回想シーンでは、二人が出会い、切磋琢磨しながら共に成長していった日々が色鮮やかに描かれ、それが藤野にとって大きな支えとなっていたことが浮き彫りになります。そして同時に、京本の存在がいかに藤野の創作活動や人生そのものに深く関わっていたのかを改めて痛感させられます。このシーン全体を通して、お互いに与えた影響や、その中に込められた想いの深さに感動しました。haruka nakamuraさんの音楽も温かく寄り添い、心に染み渡るシーンでした。

京本との出会いは、藤野にとって劣等感や喪失感という苦い感情を伴いながらも、人生の中で忘れられない大切な時間となったのではないでしょうか。過去を振り返ることは決して後ろ向きなことではなく、むしろそこには大切な思い出や経験が詰まっており、それらが今の自分を形作っているということを、この作品を通して教えてもらいました。

 

実際にあった事件がモチーフ?

作中で京本が刃物を持った人物に襲われるシーンは、私も観ていて胸が締め付けられるとともに、どこかで見覚えがあるような感覚を覚えました。映画を観た他の人々の感想を読んでみると、多くの人が同じ印象を持っており、その理由として犯行動機が挙げられています。

このシーンは、2019年7月18日に発生した「京都アニメーション放火殺人事件」を意識したオマージュではないかと指摘されています。事件と漫画『ルックバック』の発売日が時系列的に重なり、特に漫画が2021年7月19日に発売され、事件から2年後というタイミングになっているため、この類似性が意図的なものではないかと考えられました。また、犯人が「俺の絵をパクりやがって!」と叫ぶ場面があり、実際の事件で犯人が「自分の作品を盗まれた」と主張していたことと類似しているとも指摘されています。

公開当初、これらの類似点が物議を醸しましたが、後に編集部が不適切な表現を修正し、犯人の動機やセリフを変更しました。これにより、作品が特定の事件を直接的に描写するのではなく、喪失や再生という一般的なテーマを扱う方向に調整されたと考えられます。

 

さいごに

映画『ルックバック』を通じて、過去の自分や他人との出会いがいかに重要であり、それが現在の自分にどんな影響を与えているのかを深く考えさせられました。藤野のように、他人の才能に対する劣等感や自己の限界を感じる瞬間は誰にでもあるものですが、そこから学び、成長することこそが大切なのだと感じました。過去を振り返り、自分の歩んできた道を受け入れることで、今の自分をよりよく理解し、前に進む力を得られるのだと思います。この映画は、過去の自分を大切にし、今を精一杯生きることの大切さを教えてくれました。